バッハのゴルトベルク変奏曲(BWV 988)

2021年9月23日

私、バッハのゴルトベルク変奏曲(Goldberg Variations)が大好きでほぼ毎日ってくらいのペースで聞いているんですが、美し過ぎやしませんか。

ゴルトベルク変奏曲

ヨハン・ゼバスティアン・バッハ(Johann Sebastian Bach)が作曲したチェンバロ曲。バッハ作品番号はBWV 988。
元々の表題は「2段鍵盤付きクラヴィチェンバロのためのアリアと種々の変奏」だが、グレン・グールドによるピアノ・アレンジでピアノ曲のイメージが強くなった。

Contents

曲の構造が面白い

アリア 30の変奏 ダ・カーポ

  • アリア
  • 30の変奏曲
  • ダ・カーポ

この曲は最初に主題であるアリアがあり、次に1~30までの変奏曲があります。これはアリアの低音部分をベースにして、30のアレンジがなされた1~5分ほどの短い曲の集まりです。(演奏時間については後述)
そして最後にダ・カーポ(曲の最初に戻ることを指示する記号)があって、最初のアリアをもう一度演奏する形式です。

聞き方は自由

クラシック音楽には1曲で1時間くらいの曲なんかザラにあります。1~3楽章に分かれていたとしてもそれぞれが10分~20分とかあるので、現代のミニマル音楽に比べるとやっぱり長いと感じます。

でもこの曲は、それぞれの曲がとても短いので、好きなバリエーションだけをヘビーローテーションで聞くことでも十分楽しむことができます。

「クラシック音楽は眠くなりそう」っていうイメージを持っている人なんかはそういう聞き方のほうがいいと思います。

変奏は前半と後半に分けられ、それぞれリピートされる

本来は30全ての変奏でリピートがおこなわれます。でもグールドによるアレンジではそのほとんどが省略され、それぞれは1度しか演奏されません。

そのため、元々は普通に演奏すれば90分以上あった曲がグールドによる省略に加え、彼の卓越した速弾きでは約39分程度に収まっています。

変奏曲には3の倍数で1度ずつ違うカノンがある

この曲の凄いところは、変奏曲の番号が3の倍数の時、1度ずつ違う9つのカノンがあることです。3番から27番までの9つです。ちなみに最後の30番はカノンではありません。

GoldbergのVariations
Variation拍子カノン鍵盤指示
アリア3/4拍子鍵盤指示無し
第1変奏3/4拍子1鍵盤
第2変奏2/4拍子1鍵盤
第3変奏12/8拍子同度のカノン1鍵盤
第4変奏3/8拍子1鍵盤
第5変奏3/4拍子2鍵盤
第6変奏3/8拍子2度のカノン1鍵盤
第7変奏6/8拍子2鍵盤
第8変奏3/4拍子2鍵盤
第9変奏4/4拍子3度のカノン1鍵盤
第10変奏2/2拍子1鍵盤
第11変奏12/16拍子2鍵盤
第12変奏3/4拍子4度のカノン鍵盤指示無し
第13変奏3/4拍子2鍵盤
第14変奏3/4拍子2鍵盤
第15変奏2/4拍子5度の反行カノン1鍵盤
第16変奏2/2拍子序曲(Overture)1鍵盤
第17変奏3/4拍子2鍵盤
第18変奏2/2拍子6度のカノン1鍵盤
第19変奏3/8拍子1鍵盤
第20変奏3/4拍子2鍵盤
第21変奏4/4拍子7度のカノン鍵盤指示無し
第22変奏2/2拍子1鍵盤
第23変奏3/4拍子2鍵盤
第24変奏9/8拍子8度のカノン1鍵盤
第25変奏3/4拍子2鍵盤
第26変奏L:3/4, R:18/16拍子2鍵盤
第27変奏6/8拍子9度のカノン2鍵盤
第28変奏3/4拍子2鍵盤
第29変奏3/4拍子1 or 2鍵盤
30第変奏4/4拍子1鍵盤
アリア3/4拍子1鍵盤

カノンって何?

カノン (canon)

複数のパートが、同じ旋律を違う地点から演奏する曲のこと。

カノンには色んな種類がある。

  • 開始地点を前後にズラしているタイプ

  • 音程を丸ごとズラしているタイプ

  • 鏡写しのように上下や前後を入れ替えているタイプ

  • これらを複数組み合わせているタイプ

一番身近なカノンは「かえるの歌」です。かえるの歌の場合は輪唱と呼びます。輪唱とは、全く同じ音程で追いかける同度(0度=音楽理論上は1度=同度と呼ぶ)のカノンのことです。(開始地点を前後にズラしているタイプ)

ゴルトベルクの場合、1小節分だけ前後にずれています。下の動画なんか分かりやすいかもしれません。

BWV1087(14のカノン)のこの動画も分かりやすいかもしれません。

演奏が激アツ

私個人のイメージなのかもしれませんが、ショパンの曲と言えばウラディミール・ホロヴィッツの演奏、バッハやベートーヴェンと言えばグレン・グールドの演奏が特に素晴らしいなぁと感じます。

ゴルトベルクは曲として素晴らしいですが、そのなかでもグールドの演奏じゃなきゃダメだ!というくらいに彼の演奏が好きです。彼は2つの演奏をリリースしています。1つは1955年版で、もう1つは1981年版。どちらも素晴らしい。

今まで私はあらゆるピアノの音色が綺麗だと感じたことはなかったしどこか重たさを感じて好きになれなかったのですが、グールドの演奏は初めて私にピアノの凄さや美しさを教えてくれました。

逸話

曲名に関する逸話

この逸話には3人の人物が登場します。

ヨハン・ゼバスティアン・バッハ

この曲を作曲したバッハ。

ヘルマン・カール・フォン・カイザーリンク

1737年頃にロシア帝国の在ザクセン大使だった伯爵。

ヨハン・ゴットリープ・ゴルトベルク

バッハの弟子。カイザーリンク伯爵お気に入りのハープシコード奏者(チェンバロ奏者)。

曲名の由来は、不眠症に悩んでいたカイザーリンク伯爵のために、ゴルトベルクがこの曲を演奏したことからと言われています。

ゴルトベルクは卓越した演奏技能を持っていたとされています。(だからカイザーリンク伯爵のお気に入りだった)
でも演奏には本当に高度な技術が必要で、いくらなんでも当時14歳の少年だったゴルトベルクには不可能だったのではないかと、その逸話については疑問視する声もあります。

ゴルトベルクが登場したり使用されている作品

映画作品

時をかける少女』(細田守監督のアニメ映画)

ヒロインである紺野真琴がタイムリープを使って、ある地点を起点として同じ時間を何度もやり直すシーンで使用されている。
一方、ゴルトベルクの30のバリエーションはアリアの低音をベースにしてそのアレンジで構成されている。

ゴルトベルクとこの映画の両者には「何かをベースにして似たようなことを繰り返す」という共通点があり、真琴がタイムリープする度に異なるバリエーションが使用されているのもそのためだと考えられる。(監督に聞いてみないと分からないけど)

あと1センチの恋』(原題: Love, Rosie)

ロージーがアレックスの住むボストンを訪問し、サリー、フィルと4人でディナーを食べる時に流れている。グレン・グールドの1981年の演奏。

J.エドガー』(原題: J. Edgar)

クリント・イーストウッド監督による、レオナルド・ディカプリオが初代FBI長官ジョン・エドガー・フーヴァーを演じた2011年の伝記映画。

映画開始0時間10分頃にフーヴァーとヘレン・ギャンディ(ヘレン・ガンディ)が国会図書館を訪れるシーンで第2変奏が流れる。(演奏者は不明)

テレビドラマ

NHK朝ドラまんぷく 第102話

平成30年度後期(2018年10月1日から放送)の作品。2019年2月1日金曜日に放送された第102話で、安藤サクラ演じる主人公の立花福子がアルバイト先の喫茶店で生麺が美味しかったと言い張っていた時に店内のBGMとして流れていた曲。グレン・グールドによる1955年の演奏。

CM

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