英語の発音記号、発音方法に関する疑問を片っ端から解消する!
- この記事の概要
- オンライン辞典や辞書ごとに発音記号が違う理由や経緯が分かった
- 母音や子音の種類・分類や舌や口の形について一覧表でまとめた
- weblio英和辞典やGoogle翻訳の発音記号の正体も判明
英語の発音記号が辞書やウェブサイトでのオンライン辞典ごとに違う理由、疑問点について調べました。分かったことをシェアします。
これを上から順番に全部読んだら、英語学習者初心者としての英語の発音記号に関する疑問点はほぼ払拭できる!(はず)
Contents
調べるに至った経緯
最近、英語学習をより深めようと、発音記号も気にかけるようになりました。
辞書に載っている発音記号を見ると、同じ単語なのに辞書ごとに発音記号が違うことに気づきました。そして同時に、「なぜ違うの?どれを信じればいいの?」と混乱してしまい、これを解消したくなりました。
発音記号では特殊な記号が使われています。
eがひっくり返ったやつ: /ə/
aとeがくっついたやつ: /æ/
こやつらは一体何者なのか・・・まずはそこから調べました。すると発音記号には種類というか派閥があることが判明。
ちなみに、このページの発音記号は、以下に紹介するIPA1という発音記号に従っています。なぜなら、IPAは世界的に普及していてメジャーだからです。
英語の発音記号には複数の種類、派閥がある
なぜ辞書毎に違うのか。それは、発音記号に複数の種類があるからです。大きくは次の3つに分類できます。
- IPAを基軸とした音声記号
- IPA
- Kenyon system
- Jones system
- Gimson system
- Upton system
- X-SAMPA
- IPA
- 言語学者、人類学者等が使う音声記号
- APA
- 各辞書独自の発音記号
- NOAD (New Oxford American Dictionary)
- Oxford
- AHD (The American Heritage Dictionary of the English Language)
- MWCD (Merriam Webster’s Collegiate Dictionary)
(他にも辞書ごとにあります)
以下でそれぞれを説明します。
IPAを基軸とした音声記号
- IPA
- Kenyon system(ケニヨン・アンド・ノット式)
- Jones system(ジョーンズ式)
- Gimson system(ジムソン式)
- Upton system(アプトン式)
- X-SAMPA
X-SAMPAは日本の英語学習者にほぼ不要です。この項の各リンクは大抵ウィキペディアとかウィクショナリー(ウィキペディア財団が運営する姉妹サイト)なので、詳細が見たかったらリンクからジャンプしてください。
IPA (IPA1, International Phonetic Alphabet)
- IPA(IPA1)
International Phonetic Alphabetの略。Wikipediaでは、後述するIPA2(A Pronouncing Dictionary of American English)と区別するためにIPA1と表記されている。
日本語では国際音声字母や国際音声記号と呼ぶ。(IPA公式ページ)
世界のあらゆる言語の発音を表現する目的でIPA(国際音声学会, International Phonetic Association)が定めた記号で、英語の発音表記にもこの記号を使います。国際音声記号も国際音声学会も略称が共にIPAですが、省略している文字は異なります。
IPAには、フランス語からスウェーデン語からアラビア語まで世界中のあらゆる言語をカバーできるように色んな記号があります。
余談ですが、IPAは次のような指摘を受けて、1888年に制定されて以降、過去に何度も抜本的な改訂、改良を繰り返しています。
- 「この記号は全言語をカバーしきれていない」
- 「紛らわしい記号がある」
- 「全部ラテン文字を使うのってどうなのよ、西洋に偏ってない?」
IPAの4つの派生系
英語の発音にIPAの全ての記号を使うわけではありません。なので英語辞典等では、英語に使うIPAの記号だけを取り出して、更にそれらを改良して簡略化したものが使われています。
英語用に改良されたIPAの変異形(Variant)は開発者ごとにいくつか存在するので、辞書ごとに微妙に表記が異なります。代表的なものは次の4つ。
- 主なIPAの変異形(Variant)
- ケニヨン・アンド・ノット式
- ジョーンズ式
- ジムソン式
- アプトン式
ただし、あまりに簡略化しすぎて微妙に異なる発音を同一のものと誤認させる表記もあったりします。でもそれは開発者が「どう表記すれば分かりやすいだろう?」と色々考えて意図した結果です。
もし方言など細かい違いを表現したい場合には純正・本家のIPAを使う方が良いとされています。
で、何式かを言わずに漠然と「IPAで表記してます!」と言っている辞書もあります。バリエーションがあることを知らないと「どれもIPAのはずなのに、なぜ表記がそれぞれ違うの・・・イギリス英語とかアメリカ英語の発音の違いなの・・・?」と混乱します。
実際方言によって表記が違うこともありますけど、方式そのものが違うこともあるということを理解してください。またウェブ上の辞書は「内容が自前じゃなくて、ネットのどこかから抽出してきて転載している」サイトもあり、記号が混在している場合もあって、いくら調べても何方式か断定できなかったりすることもあります。
なので、色々食い違いがあって混乱した時は「あ、たぶん方式が違うんだな」と気づいて下さい。
系統 | 開発者 | Variant |
---|---|---|
Kenyon system | John Samuel Kenyon(アメリカ) | IPA2(A Pronouncing Dictionary of American English)。 |
Jones system | Daniel Jones(イギリス) | 日本における英和辞典の多く |
Gimson system | A. C. Gimson(イギリス) | 日本における英和辞典の多く |
Upton system | Clive Upton(イギリス) | ODO(UK), CODなど。(後述するNOADなどのアメリカ英語辞書を除くOxford系) |
上記一覧の概要を下記に記します。
- Kenyon and Knott式(IPA2)
Kenyon system; Kenyon scheme。
IPAを元に、John Samuel KenyonとThomas A. Knottが1944年に出版したA Pronouncing Dictionary of American Englishで使われている方式。1900年代(20世紀)は主流だったが、2000年代以降はJohn C. WellsによるLongman Pronunciation Dictionaryが台頭してきている。- Jones式
Jones system; Jones scheme。
Daniel Jonesが開発したもの。日本で流通する英和辞典等でも多く用いられている。見分けるポイントは、母音も子音も基本的に小文字の記号しか使わないこと。(ʌを除く)
- Gimson式
Gimson system; Gimson scheme。
A. C. Gimsonが開発したもの。Jones式と同様に、日本でも多くの英和辞典で採用されている。- Upton式
Upton system; Upton scheme。
Clive UptonがGimson式を更に改良したもの。
X-SAMPA (Extended SAM Phonetic Alphabet)
- X-SAMPA
コンピュータ上でIPAを表記できるようにASCII文字のみで表記したもの。Jones式発音記号等とは違い、IPA1をASCII文字に置換しただけなので、過不足なく正確に発音を表記できる。(IPA、X-SAMPA、AHDの発音記号の互換表)
例えば/ə/を/@/マークで表現したり、/ʌ/を/V/で表現している。ただ辞書ではIPA等を使うので、基本的にはX-SAMPAは使わないと思っていい。
言語学者、人類学者等が使う音声記号
- APA
アメリカの音声記号(Americanist phonetic notation)。
主に、アメリカニストと呼ばれるアメリカ先住民族を研究する人類学者や言語学者が使用するために発展してきた音声記号。記号の内容や使い方はIPAとほぼ共通するのでとても見分けにくい。だが異なる部分もあるし、IPAで廃止された記号も使われる。辞典では使わないので別物と認識するべき。IPAのように学会がないので、学者によってズレがある。基本、英語学習者向けには使われない。
IPAと混同してこの記号を使っている人もいる。
各辞書独自の発音記号、Google翻訳の発音記号
IPAとは別に、各辞書やウェブサイト独自の発音記号(Pronunciation respelling key)を使用している場合もあります。
いわゆる英英辞典(英単語を英語で説明している辞典)に採用されている発音記号(Key)の多くは各自で記号を定めているので、辞書ごとに発音記号がバラバラで、全ての記号が完全に一致している辞書はありません(部分的に共通していることはよくある)。正に独自記号です。具体例としてNOADで採用されている発音記号だけ下記に紹介しておきます。
- NOAD
Oxford系の辞書のうち、NOAD(New Oxford American Dictionary)などのアメリカ英語用の辞書で見られる発音記号。Google翻訳の発音記号もこの方式を採用している。主な特徴は次の3つ。
/:/を使わない。
/ᴛʜ/や/sʜ/(小型大文字か普通のアルファベットの/TH//SH/で表記)など2文字の子音は大文字で表記する。
/ʌ/も/ə/も両方/ə/と表記する。
- NOADの発音と記号の解説動画
下記はそれぞれの辞書・辞典での発音記号に関する案内の例です。
辞典・辞書 | 採用している発音記号 |
---|---|
Longman(ロングマン現代英英辞典) | IPA |
weblio翻訳 | IPA (Quantitative Notation) |
Google翻訳 | NOAD |
NOAD(新オックスフォード米語辞典) | 独自記号 |
Oxford(オックスフォード英語辞典) | 独自記号とIPAを併用 |
COD(コンサイスオックスフォード英語辞典) | 独自記号 |
AHD(アメリカンヘリテージ英英辞典) | 独自記号 |
MWCD, Webster(メリアム・ウェブスター辞典) | 独自記号 |
詳細は、英英辞典やウェブサイトごとの発音記号の違い一覧表を確認できるwikipediaのPronunciation respelling for Englishの項を確認すること。
どの発音記号を使っているか見分ける方法
一応書きましたが、ここは読み飛ばしても大丈夫です。
- 1つ目の方法
上記のリンクみたいにその辞書やONLINE辞典の案内を見ること。でもちゃんと掲載してくれていないウェブ辞典とか個人で英語を教えているサイトなどがよくある。紙ベースでもみつけるのが面倒だったりする。
- 2つ目の方法
試しに単語を調べてみること。例えば[Saturday]などを調べる。
仮に[Saturday]の表記が[米国英語:/sˈæṭɚdèɪ/, 英国英語:/ˈsætədeɪ/]となっていたら、それはIPA表記。
なぜなら、/æ/と/ɪ/を使っているから。
IPAの変異体のうち、Jones式なら小文字しか使わないから/ɪ/は無いはずだし、IPAとAPA以外の辞書なら/æ/を使わないので、消去法でIPAかAPAだと判別できる。でもIPAとAPAなら普通はIPAを使うのでIPAだと断定できる。でもこれ以上、どの変異体かを見極めるのはちょっと手間がかかる。語尾が最後が/-de/ならIPA2だろうけど。もし/æ/が使われているのに/ɪ/が/i/で小文字を使っているならJones式だし、[/æ/]が[/a/や/ae/]と表記されていたら、それはその辞書独自の発音記号だと思っていい。
他にも、独自記号では/æ//dʒ//ð/のような、普段見慣れない記号を使わないので、独自記号かどうかの判別はしやすい。
辞書によって発音記号が違う理由
前述の通り、辞書によっては同じ単語でも違う発音記号が示されていたりします。なぜなのか、大きな要因が3つあります。
要因1:繰り返されるIPAの改訂や改良
IPAは1888年に制定されて以降、改訂・改良を繰り返しています。1900年にアラビア語をカバーし、1932年に大幅な改良、1976年には記号の追加と撤廃、と変遷しています。つまり、同じIPA1を採用した辞書でも、新旧では違う記号が使われていることもあります。
要因2:国際音声学会は発音記号の開発と制定をしているだけ
国際音声学会がおこなうのは、あくまで発音記号の開発と制定だけです。
例えば、「英語のbedの発音表記は/bɛd/で統一だ!」とか国際音声学会が決めてるわけじゃなくて、辞書の出版社や監修・編集する学者らが「この単語の発音を表すなら、使うのはこの記号じゃね?」とか「こう教えた方が伝わりやすいんじゃね?」、「てかうちら独自の記号使わね?」という風にそれぞれが決めているので、微妙に差が出てくるというわけ。
要因3:方言、地域差
アメリカ英語の標準語は一般米語(General American)(西部アメリカ英語、中部アメリカ英語、標準カナダ英語を包括する)で、イギリス英語の標準語はアナウンサーや王族が話す容認発音(Queen’s English)とされていて、それぞれ発音が異なります。辞書にどれを掲載するかでその違いが出てきます。
また、地域によっては、他地域の英語では使わないような発音が存在し、その地域で出版している辞書では地域性のある発音表記が載っていることもあります。
例えばウェブ辞典の場合、オックスフォード辞典は所在がイギリスなので、ODOで普通に発音を調べても、英国英語の発音しか載っていません。(米国英語のcatalogを検索しても英国英語のcatalogueへ転送される。勿論、USのメニュー選択をすればアメリカ英語も選択は可能)
紙媒体だと、ODE (Oxford Dictionary of English)はイギリス英語を掲載していますが、NOAD (New Oxford American Dictionary)はアメリカ英語で、それぞれ発音表記が異なります。
母音や子音の種類・数が説明する人によって違うのはなぜ
英語の母音や子音が何種類存在するか。母音は20種類~26種類、子音は24種類~29種類です。
なぜ数が曖昧かというと、方言などを含めていたり、あるいは逆に似た音を1つにまとめたり、辞書ごとに見解が異なったりするからです。だから「英語の母音は何種類だ!」と覚えても無意味です。これくらいあるんだ、でいいんです。それぞれの記号の発音さえ分かればそれで良いんです。
母音の数をごく少ない数として紹介しているネイティヴは、次のように全部で15個で、残りはその組み合わせや特殊例にすぎないと紹介している人もいます。
- 短母音のaeiou [/æ//ɛ//ɪ//ɑ//ʌ/]の5つ
- 長母音のAEIOU [/eɪ//iː//aɪ//oʊ//juː/]の5つ
- その他の[/ʊ//u://ɔː//ɔɪ//aʊ/]の5つ
- 残りのəとかrつけたりする変化は特殊なバリエーションにすぎない
その一方で、微妙なバリエーションや組み合わせを全てカウントして26種類だとか紹介している人もいます。
日本語でも[相生, あいおい]という言葉はIPAで表すと/aioi/で、じゃあ使ってる母音の種類は/a//i//o//ai//io//oi//aioi/で7個だね、みたいな分類をしていて、そりゃ20種類超えるよ、という話です。
他にも[案内(あんない)]と[案外(あんがい)]の[ん]の音も厳密には違います。[案内]の[ん]は舌を口の天井に付けて、[案外]という時は舌が喉の奥にあります。中国語の発音表記でもこれは[an]と[ang]と使い分けがされていますが、日本語では全部一緒くたにしています。
日本語話者のほぼ全員が、日本語の子音の種類や数を知らないけど日本語を話せるのと同じように、英語でも覚えたり分類出来る必要はないと私は考えます。(言語学者じゃないんだから)
分類方法についても三重母音が存在するとかしないとか、まちまちで、キリがありません。
長母音、短母音の定義について
短母音の発音が「a, e, i, o, u (/æ//ɛ//ɪ//ɑ//ʌ/)の5つだ」という人もいれば、「/i/や/ɜ/を含める」とか、「/æ/は長母音だ」と解説する人もいます。結局これもバラつきがあります。これにはいくつか理由があります。
歴史的な用語・ネイティヴの感覚として長母音(long vowel)と短母音(short vowel)と言っている場合と、音声学的に言っている場合で分類が異なるから。
これまでの説明の通り、辞書や方式によっては母音の数そのものが違うから。
昔と今では発音自体が異なり、使う母音の数そのものが変化しているから。例えば次のような理由から/ɔ/や/ʌ/を使わない辞書が出てきている。
- 現代では、/ʌ/はほぼ曖昧母音の/ɜ/や/ɐ/へ変化
- 現代では、短母音の/ɔ/は、北米ではほぼ/ɑ/へ変化(イギリスでは/ɒ/へ変化)(てか/ɔ/と/ɒ/はほとんど聞き分けられない
解説者によって考え方が異なるから。
なので、絶対的なものが存在するとは思わずに、「ああ、この人の意見ではこうなんだな」、「君が使っている辞書ではそうなんだね」くらいに思わないと、人や辞書によって言うことがかなり違うので混乱しやすいです。
英語の発音記号、発音方法、単語例の一覧表
ここでは次のように分類します。
-
母音:20種類
- 短母音:10種類
- 長母音:5種類
- その他の母音:5種類
- 子音:24~26種類
IPAに従った母音と子音の発音方法について、以下の表で示します。(ページ内移動)
WikipediaのAudio samplesで音声を聞くことができます。表と照らし合わせて再生してください。
発音の記号、単語例、IPA表記の関係についてはHelp:IPA/Englishでも確認できます。
IPAの補助的な記号:超分節要素
下表はIPAで使われる補助的な記号:超分節要素の一覧です。英語で使うのは上の4つ。(経験則的に見掛けないから)
No. | 記号 | 名称 | 意味 |
---|---|---|---|
1 | ˈ | 第一ストレス | 強く発音する箇所。IPAとNOADのストレスの記号は完全に共通している。 |
2 | ˌ | 第二ストレス | 第一ストレスよりも弱く発音する箇所 |
3 | ː | 長 | 厳密には、/ː/は機種依存文字の長音符(Unicode U+02D0)で、半角のコロンではない。X-SAMPAでは半角コロン/:/を使う。 |
4 | . | 音節境界 | 音を区切る箇所に設ける記号。[.]や[・]を使う。例えばunbelievableという単語なら[un・be・liev・a・ble]。 |
5 | ˑ | 半長 | |
6 | ̆ | 超短 | |
7 | | | 小さな切れ目 | 韻脚 |
8 | ‖ | 大きな切れ目 | イントネーション |
9 | ‿ | 連結 | 切れ目無し |
母音
ここでは、AEIOUのスペルに沿った発音の分類をしています。
- 二重母音(Diphthongs 或いは Double Vowel Sounds)
- 三重母音(triphthongs)
これらに従って分類したとしても長母音と重複する音も存在するので、フォニックスの観点からはかえってややこしくなるのでここでは敢えて分類しません。
- フォニックス(Phonics)
スペルと発音にはある程度の規則性があることや、その体系のこと。例えば「/k/は スペルとしてはc, k, ckのどれかで書かれる」という法則性。ネイティヴの英語教育では5歳から6歳の幼少期にこの法則を用いた学習を受ける。この法則は75%以上通用すると言われている。
one(/wˈʌn/)など、日常で頻繁に使われる短いスペルの単語ではその法則性が当てはまらない例外がたびたび見られる。(例えば/wˈʌn/という発音を文字にしたい場合、法則に従ったら綴りは[w]で始まるはずでしょ!?なんで[o]で始まるの!?という話)
これらの例外については個別に覚える必要がある。しかし、understandやimportantなどのスペルの長い単語では概ねこの法則が当てはまりやすい。- フォニックスの解説動画
短母音の一覧表
一般的にアメリカ英語に於いて、ネイティヴのいう短母音とはaeiou [/æ//ɛ//ɪ//ɑ//ʌ/]の5つです。ここに掲げる表では、イギリス英語だけで使う/ɒ/についても言及しています。他の近似する母音にも言及するので合計で10種類になります。
# | Sp | IPA | 記号名 | 発音方法、読み方、口の形 | 単語例 |
---|---|---|---|---|---|
1 | a | /æ/ | LATIN SMALL LETTER AE | アッシュ; 小文字aとeの合字。舌先を下の前歯の裏に当て、エのくちでアを言う。 | cat, man |
2 | e | /ɛ/ | LATIN SMALL LETTER OPEN E | オープンE。日本語のエ。一応、Unicode上ではギリシャ文字のイプシロン[ε]ではない。 | let, met |
3 | i, y | /ɪ/ | LATIN LETTER SMALL CAPITAL I | Iの小型大文字。/i/よりもチカラを抜き、少しエの混ざったイを言う。[アメリカ英語の/i/=イギリス英語の/I/]がよくある。以前はギリシャ文字のイオタ[Ι]だったが、廃止されて[Ι]→[ɪ]に使用文字が変更された。 | it |
4 | /i/ | LATIN SMALL LETTER I | 小文字i。日本語のイ。くちを横に大きくしなくても言える。/ɪ/と区別しない場合もある。 | pit, rid | |
5 | aw | /ɔ/ | SMALL LETTER OPEN O | オープンo; 開いたo。くちを半開きにしてオを言う。昔は/ɔ/で発音していた単語も現代では、北米ではほぼ/ɑ/へ変化、イギリスでは/ɒ/へ変化。アメリカ英語では/ɔ/ではなく、caught /kˈɔːt/ のように音声学的長母音/ɔː/として使う。 | pot, lot |
6 | o | ɑ | SMALL LETTER ALPHA | 小文字aの筆記体。アメリカ英語の特有音。ギリシャ文字の[α]とそっくりだが、一応別物。アのくちで舌を奥に入れてアを言う。あくびの時の「あ~」、お風呂に入った時の「あぁ~」。見た目は短母音だが実質的に/ɑː/のように長母音として扱う辞書も多い。 | wow, pot, lot |
7 | o | /ɒ/ | SMALL LETTER TURNED ALPHA | 逆さの[ɑ](小文字aの筆記体)。イギリス英語の特有音。アメリカ英語の/ɑ/はイギリス英語の/ɒ/にほぼ置き換えられると言っていい)。/ɒ/はIPAでしか使われない記号。アのくちで舌を奥に入れてオを言う。相槌を打つ時の「おんおん」、お風呂に入った時の「おぉ~」。 | pot, lot |
8 | u | /ʌ/ | TURNED V | 逆さのV。アとオの中間でア寄り、ほぼアに近い。昔は/ʌ/で発音していた単語も、現代では曖昧母音の/ɜ/, /ɐ/, /ə/へ変化。例えばbut/bʌt/→/bət/へ、バットだったのがブァットみたいに発音が変化した。(当然、/ʌ/の発音自体が変わったという意味ではないよ) | but, cut |
9 | u | /ɜ/ | REVERSED OPEN E | 逆向きオープンE。エとオの中間でエ寄り。昔は/ʌ/で発音していた単語は、現代では曖昧母音の/ɜ/, /ɐ/, /ə/へ変化。例えばbut/bʌt/→/bət/へ、バットだったのがブァットみたいに発音が変化した。 | but, cut |
0 | – | /ə/ | LATIN SMALL LETTER SCHWA | シュワー; schwa。相手に疑問を感じた時の「あぁん!?」の「あ」。舌が浮いている状態。NOADとMWCDは/ʌ/も/ə/も/ə/としている。 | a, the, ago |
長母音の一覧表
一般的なネイティヴ感覚の長母音とは、A, E, I, O, U (/eɪ//iː//aɪ//oʊ//uː/)の5つのアルファベットを単体で読んだ時の音です。
# | Sp. | IPA | 発音方法、読み方、口の形 | 単語例 |
---|---|---|---|---|
1 | A | /eɪ/ | エィ。アルファベット[e]+小型大文字[ɪ]。 | April, able, aid, mate, ate |
2 | E | /iː/ | /i/を伸ばす。舌をくちの天井に近づけてイーを言う。音程は「イ~」と波打つ。くちを横に大きくしなくても言える。 | meet, see, please, tea |
3 | I | /aɪ/ | アィ。アルファベットの[a]+小型大文字[ɪ]。[a]は筆記体のa[ɑ]ではない=/ɑɪ/ではない。 | I, my, buy, might |
4 | O | /oʊ/ /əʊ/ | オゥ。米国英語:/oʊ/、英国英語:/əʊ/ | goal, go, hope, no |
5 | U | /juː/ | ユー。 | you, mute, cube, tube |
その他の母音の一覧表
# | Sp. | IPA | 発音方法、読み方、口の形 | 単語例 |
---|---|---|---|---|
1 | u, oo | /ʊ/ | 舌を奥に入れてくちを丸めてウ。 | put, should, woman, good, look, took |
2 | oo | /uː/ | ウー。 | soon, moon, zoom, smooth |
3 | aw | /ɔː/ | アのくちでオーを言う。 | law, raw, claw, caught, dog |
4 | oi | /ɔɪ/ | オィ。機種依存文字のオープンオー[ɔ]+小型大文字[ɪ]。 | join, boy, void, choice, noise |
5 | ow, ou | /aʊ/ | アゥ。アルファベット[a]+機種依存文字ウプシロン(俗称:ホースシュー)[ʊ]。[a]は筆記体のa[ɑ]ではない=/ɑʊ/ではない。 | down, cow, cloud, loud, out |
- 舌の動きが分かりやすい動画
- /i/と/ɪ/の発音の違いを分かりやすく解説している動画
- /æ/は長母音だと解説している動画(記号はAPAかな?)
- yは母音なのか子音なのかに関する回答
オックスフォード英語辞典のEditorial CoordinatorのJean Pierre de Rosnay氏が語っています。
yは子音の分類される。なぜなら、母音の/i/の代わりになるスペルが存在するのも確かだが、/j/の音はyでしか表現できないから。
まとめ: オックスフォード系の辞書が無難
もしアメリカ英語に関する辞書を買うのであれば、Google翻訳とも整合が取れるNOAD(New Oxford American Dictionary)などのオックスフォード系の辞書か、普及率の高いIPAで発音記号を記している辞書がおすすめです。
(子音についてはまた今度追記します)
ディスカッション
コメント一覧
質問系のいくつかのサイトで発音記号について尋ねてもどうもピンとこないことが多かったのですが、やっとすっきりしました。記号体系自体におおよそ三種類あるわけですね。納得。
で、お尋ねしたいのですが、実際の会話の中で各発音記号が使用されてる割合のデータはどこかにあるでしょうか。例えば
æ 8%
ɑ 15%
ʌ 6%
…
子音なら
r 20%
w 14%
…
といったデータです。母音子音混ぜてでも構いませんし、地域、世代、教育レベルなどによっても違うでしょうが大雑把でいいので順位だけでも載っているサイトがあったら教えて下さい。
コメントありがとうございます。
残念ながらそういったデータは見たことがありません。見かけたらまたお知らせしますね。
了解。
回答ありがとうございました。
非常にわかりやすいまとめで理解に役立つました。
ところで、表の中で「Oxford(オックスフォード米語辞典) 独自記号とIPAを併用」とあるのは、米語ではなく英語の誤植でしょうか。
そうですね、訂正しました。ご指摘ありがとうございます。
オックスフォードでもUSとUKがあって調査時にUSでIPAを調べたので、敢えてそう書いたのかもしれません。(覚えてない)
母音って最も難しくて、最も大事ですよね。
凄くレベルの高い人でも母音に日本語を引きずってるなとよく思います。
ただ発音記号は似た音を一つにまとめてるので、これだけでは発音を近づけられないと思います。
例えば愛とIのaは発音記号では一緒かもしれませんが、調音音声学的には全然違う音ですし。
けれど、舌と顎と唇で全ての音は出来ていて、これを学べばネイティブと全く同じ発音になれる、逆に学ばないとなれない、という事を考えると僕は調音についてもっとみんな学ぶべきだと思います。
まあ英語でも場所によって全然異なる訳ですが。